むかし大島に善太郎婆というお婆さんが住んでおりました。 亭主の善太郎に先立たれてさみしかったので、一匹の大きな猫を相手に暮らしておりました。
この猫は大変に利口な猫で、家に上がるときにはいつも足をぞうきんで拭いて上がったそうです。
この善太郎婆の家の床下から、夜になると、なんとも妙な音がお囃子のように聞こえてきたのです。 それは、石と石、木と木、鍋や釜や茶碗のかけら、骨と骨などを打ちつけたり、こすり合わせたりする音でした。
とてもこの世のものと思えぬへんてこな音でした。 そしてこの調子に合わせて大合唱が起こるのです。「ブッツク、ブッツク、ニャンゴロリン、オッピーヒャラリコ、ハチオウジ、スッテンテレツク、ザルヨコチョウ」 このへんてこなお囃子のかしらは、この家の主の大猫でした。この猫が近くに住む狸や狐、むじなやかわうそなどを集めて、夜毎の大合奏、大合唱をやっていたのです。
善太郎婆はこのお囃子に聞きほれていましたが、近所の人はたまりません。 「このばけものども」と棒や鎌などを持って押しかけてきますが、その度に音はぴたりとやんでしまうのでした。この音は、普通の人にとっては騒音にしか聞こえませんでしたが、心に何のやましいことがない人には、それは良い音に聞こえたのです。