むかし、どこからか一人の女の六部(巡礼)が梅宗寺の門前に弱り果ててたどり着きました。しかもその女は身ごもっていて産気づき、苦しみはじめました。
門前で飴を売っていたお婆さんが驚いて助け起こし、家の中に入れて介抱しましたが、その甲斐なく女は子どもを生んで間もなく、亡くなってしまいました。 そこでねんごろに葬り、赤子は寺の住職が引き取って育てることになりました。
さてその後、夕暮れになると必ずお婆さんの店先に立つ女がありました。
髪をおどろに乱し痩せ衰え、黙って一文銭を出して飴玉を指差し求めて帰るのです。
それが毎日続いて六日になり、それ以降ぴったりと来なくなりました。
お婆さんは不思議に思い住職に話しました。住職は暫く考えて「それは、この間亡くなった六部の幽霊に違いない。赤子が飴をしゃぶっていたので不審に思っていたが 、死んでも子どものことが心配で、飴玉を買って与えていたのだ。葬るときに持たせた六文銭がなくなったので来なくなったのだ。不憫なことよ」と数珠をまさぐるのでした。
お婆さんは近所の人と鳩川に『流れ灌頂』を作って冥福を祈りました。
その後観音堂が建てられ、安産と子育ての護りとして永く祀られています。
※灌頂(かんじょう):墓参りなどのとき、墓に閼伽(あか)の水を注ぎかけること。